■ beBule blog for 3D Audio #02
2016/02/15
■ beBule blog for 3D Audio #02
・「ライブ作品におけるDolby Atmos Mixingの注意点」
*はじめに
皆さま、beBlue AOYAMAの染谷でございます。さあ、2016年がスタートしました!皆さま、如何お過ごしでしょうか?きっと年明けもお忙しくされていることと思います。改めまして、本年もどうぞ宜しくお願いします。
2016年は3D Audio年です(勝手に決めていますが)!!
今年は昨年にも増して、出来る限り多くの3D Audio情報を皆さまにお伝えしたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
気が付けば1月も終わり、あっと言う間に2月に突入してしました。すっかりブログの更新が遅れてしまい大変申し訳ありません。
大変遅くなりましたが、年明け1回目の記事をやっとお伝えすることができます!ついに国内初となります、ライブ映像でのDolby Atmos採用作品が2/17にリリースされます。アーティスト名とタイトルは「V6 / LIVE TOUR 2015 -SINCE 1995〜FOREVER-」です。
beBlue AOYAMAが総力をあげて、作業サポートを担当させて頂きましたので、今回のトピックは「ライブ作品におけるDolby Atmos Mixingの注意点」と題して、実際の制作を通して、私が感じたことをお話したいと思います。とは言え、皆さまよくご存知の通り、私は音楽のミキシングエンジニアではございませんので、あくまでテクニカルサポートとしての視点でお伝え致します。
まずは作品のご紹介をさせて頂きます。この作品はV6のデビュー20周年を記念して行われたツアーファイナルの模様(V6のデビュー日である11/1 の代々木第一体育館公演)を収めた貴重なライブ映像です。商品ラインナップとしては基本的にDVD盤、BD盤がリリースされ(初回限定版、通常版が有り)、BD盤のみにDolby Atmosが収録されています(詳細:http://avex.jp/v6/news/detail.php?id=1030388)。
*作業スケジュール
それでは本題に入ってまいります。
始めに多くの皆さんが気にされている本作品のDolby Atmos Mixingに費やされた作業日程ですが、①Mix作業に丸4日間、②マスタリング作業に1日となります。その後、③オーサリング作業などを経て終了となります。但し①の「Mix作業」に関しましては、既にCDやDVD用にMix作業をされた延長線上でのAtmos Mix作業ですので、誤解のなきよう皆さまのご理解を頂ければ幸いです。
beBlue AOYAMAでは、①のMix作業と②のマスタリング作業を担当しました。①のMix作業は何となくイメージ出来ると思いますが、②のマスタリング作業って何をするの?と思われる方も多いかと思います。
#マスタリング作業とは、それぞれの用途に適したDolby Atmosマスターデータを作成する作業です。
基本的にDolby Atmosでの音響制作フローは、劇場公開映画用とホームシアター用の2つに大別されています。Dolby Atmos作業の核になるハードウェアであるRMU(レンダリング・マスタリング・ユニット)もそれぞれの再生環境に適した音響制作を正しく行なうために分けられています。
具体的に言えば、私達beBlue AOYAMAでは、ホームシアター用のマスターデータは創れますが、劇場公開用映画のマスターデータを創ることは出来ません。
一方、東映さんをはじめとするDolby Atmos対応Dub Stageでは、劇場公開用映画のマスターデータは創れますが、ホームシアター用のマスターデータを創ることは出来ません。
言い換えれば、beBlue AOYAMAでは映画用Dolby Atmosのファイナルミックスは出来ないということです(許可されていない)。
しかしながら、プリミックス作業を行なうことはDolby社から許可されています(“Dolby Atmos Sound Design Studio”として承認)。
日本の音響制作では予算や時間的要因から省略されてしまいますが、私はこれまでの経験を通して、このプリミックス作業が非常に重要な作業であることを痛感しています(世界基準と日本の音響制作のクオリィティーの違いは、このプリミックスにも顕著に表れています)。
特にDolby Atmosのような表現力豊かな3D Audioフォーマットでは、緻密で複雑なプリミックスが不可欠になります。ファイナルミックスを成功に導くには、このプリミックスの完成度が重要な鍵を握っています。
ですので、完成度の高 いプリミックスをbeBlue AOYAMAで行なって頂き、そのPro Toolsデータを東映さんなどのDolby Atmos対応Dub Stageに持ち込めば、ファイナルミックス作業が無駄なくスムーズに行なえるわけです。
これら音響制作に関するフリーの差異につきましては、別な機会(別レポート時)にじっくりとご説明をさせて頂ければ幸いです。
さて、今回の作業を通して気がついた、または感じた「ライブ作品におけるDolby Atmos Mixingの注意点」は大きく3つあります。
・注意点 “その1”
収録時のオーディエンス用のマイク数を通常の1.5〜2倍に増やす。特にOFFマイクの数を多くする方が会場の臨場感を表現しやすくなる。
さて、私が今回の作業を通して感じた「注意点その1」は収録時のオーディエンス用マイクの数と設置位置についてです。
Dolby Atmosの再生環境では5.1chなどとは異なり、ライブ会場の臨場感などが非常に表現しやすくなります。しかしそれを再現するにはこれまで以上にオーディエンス用のマイクに気を配り、数を増やす必要があります。具体的な数は会場によって違うと思いますが、目安としてはこれまでの1.5〜2倍の数があると、ミキシング時に様々なチャレンジが可能になります。
また会場によっては難しいかと思いますが、特にOFFの音がとても重要になりますので、天つりの数を増やすことをお勧めします。この天つりマイクをCeiling全体に定位させると「自然な包まれ感」が表現出来ます。またオブジェクトトラックを利用してCeilingの前後に定位させることで「さらに自然な包まれ感」を表現出来ます。
・注意点 “その2”
オーディエンス用のマイクのタイムアライメントを細かく行い、
違和感のない音場再現を心掛ける。
数多くのオーディエンスマイクの設置するわけですが、ミキシングの際には、それぞれの収録音に対するタイムアライメント施し、ディレイタイムの調整を行なった方が会場の一体感を表現できます。
収録時のままの状態ですと、想像よりもディレイが多すぎたり、また他のマイクと位相干渉を起こしていたりと、マイクの設置位置によって様々な問題が生じます。ですので、それぞれの収録音に対し、会場の臨場感をより良く伝えるための「タイムアライメント」を行なうことをお勧めします。
・注意点 “その3”
レストレーション技術を活用して不必要な音を除去する。
沢山のオーディエンスマイクを使用することは、観客の咳や不必要な歓声(適切でないかけ声など)、様々なノイズも一緒に収録されてしまうリスクを負うことでもあります。しかしながら、その不必要なノイズが多少入ってしまっているだけで、その収録音を捨ててしまうのは非常にもったいないと思います。
そこで今回の作業でも活躍したのが、iZotope社のRX4です(現在の最新バージョンはRX5ですが、弊社もこの先にバージョンを上げます)。このRXを上手く使いこなすことで、特に不必要な歓声やノイズを細かく修正処理することが可能になります。
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今回の3つのポイント
・収録時のオーディエンス用のマイク数を通常の1.5〜2倍に増やす。特にOFFマイクの数を多くする方が会場の臨場感を表現しやすくなる。
・オーディエンス用のマイクのタイムアライメントを細かく行い、違和感のない音場再現を心掛ける。
・レストレーション技術を活用して不必要な音を除去する。
ということで駆け足のご説明になってしまいましたが、ご質問等ございましたら、このBlogにご連絡を頂くか、someya@beblue.co.jpまでメール頂ければと思います。
最後に個人的な、そして素直な感想ですが、「V6の曲は良い楽曲が多く、とても良いステージだと」と思いました。是非に皆さんもV6LiveをDolby Atmosでお聴き頂ければ幸いです。
それでは、次回も宜しくお願い致します。
No Mix, No Life. No Pain, No Growth.
Sound Designer / Re-Recording Mixer
Kazutaka Someya(KT-KAZU)